2012年3月1日木曜日

プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(2)


「発明」のQ&A

Q2.「X製法により得られた生産物Z」という特許発明があるときに、「Y製法により得られた生産物Z」を生産すると、その特許権を侵害することになりますか?


A2.
(1)プロダクト・バイ・プロセス・クレームは、「異なる製法により得られた生産物がそのクレームで特定された発明に含まれるのか」という根本的な問題をはらんでいます。

(2)先ず、現状の特許庁における審査に関していえば、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは「最終的に得られた生産物自体を意味しているものと解する。したがって、請求項に記載された製造方法とは異なる方法によっても同一の生産物が製造でき、その生産物が公知である場合は、当該請求項に係る発明は新規性が否定される。」とされています(特許庁審査基準第Ⅱ部第2章1.5.2(3))。このようにプロダクト・バイ・プロセス・クレームは、あくまでも「物」の発明であり、最終的な結果物に拘るというのが、少なくとも現時点における特許庁の審査における考え方です(結果物特定説、物同一説)。

(3)次に、特許権侵害訴訟段階に関していえば、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに係る「発明の技術的範囲は、当該製造方法により製造された物に限定されるものとして解釈・確定されるべきであって、特許請求の範囲に記載された当該製造方法を超えて、他の製造方法を含むものとして解釈・確定されることは許されないのが原則である。…(中略)…(物の発明は)物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときには、…(中略)…その技術的範囲は、特許請求の範囲に特定の製造方法が記載されていたとしても、製造方法は物を特定する目的で記載されたものとして、特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく、「物」一般に及ぶと解釈され、確定されることとなる。」とされています(知財高裁平24.01.27(平成22(ネ)10043))。上記のような事情が存在する場合のプロダクト・バイ・プロセス・クレームは「真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」、そのような事情が存在しない場合のプロダクト・バイ・プロセス・クレームは「不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」と呼ばれています。真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合、特許発明の技術的範囲(ほぼ権利範囲)は、特許請求の範囲に記載された製法に限定されることなく同方法により製造される物と同一の物として解釈されますが(結果物特定説、物同一説)、不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合は、特許請求の範囲に記載された製法により製造される物に限定されて解釈されます(過程限定説、製法限定説)。ちなみに、プロダクト・バイ・プロセス・クレームが真正か不真正かの立証責任は特許権者側にあります。その立証が不十分な場合は不真正であるとして扱われ、特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲に記載された文言通り、製法に限定して解釈、確定されます。

(4)この最近の知財高裁の裁判例に基づけば、Q2の場合、原則として特許権侵害にはなりません。但し、特許請求の範囲の記載が真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームと解釈される場合には特許権侵害となる危険も皆無ではありません。具体的な事案についての判断は、専門家である弁理士等にご相談されることをお勧めします。



特許業務法人SANSUI国際特許事務所 代表弁理士 森岡 正往


プロダクト・バイ・プロセス・クレーム


「発明」のQ&A

Q1.「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」とは何でしょうか?

A1.
(1)プロダクト・バイ・プロセス・クレームとは、生産物(プロダクト)の発明を、製法(プロセス)の表現を用いて特定した請求項をいいます。先ず、この概要について説明します。

(2)「発明」は自然法則を利用した技術的思想の創作であり(特許法2条1項)、発明には「物の発明」と「方法の発明」(同2条3項)があります。特許を取得しようとする場合、先ず、その分類(カテゴリ)に沿って、その対象が「物の発明」であるか「方法の発明」であるかを明らかにする必要があります。次に、特許を取得しようとしている発明が第三者にもわかるように、権利範囲を定める基準となる書面(特許請求の範囲)に、請求項という単位毎に、その発明を言葉で記載して特定する必要があります。
この際、「物の発明」なら、基本的に「物」に係る構成要素(これを物的構成要素という。)のみを用いて表現できるはずです。また、「方法の発明」なら、基本的に工程(ステップ)等の「方法」に係る構成要素(これを方法的構成要素という。)のみを用いて表現できるはずです。従って、生産物(プロダクト)の発明は「物の発明」ですので、本来、その特定表現は具体的な物的構成要素のみで特定できるはずです。このように生産物の発明が具体的な物的構成要素によって特定されることにより、審査対象となる発明が明確になるのみならず(同36条6項2号)、他人の特許権により大きな影響を受ける第三者にとっても、特許権の権利範囲が明確となり好ましいといえます。

(3)ただ、そもそも発明は技術的思想という抽象的な概念であり、言葉による特定自体が容易ではありません。また、新規で有効な生産物が製造されることは明らかでも、その生産物に係る発明の特徴を物的構成要素で的確に特定すること自体が困難、さらには不可能に近い場合も多々あります。このような傾向は、目視できないミクロな物的変化に基づいて優れた効果を発現する材料分野の生産物に係る発明に多く観られます。もっとも、このように物的構成要素による生産物の特定が困難な場合でも、特定の製法により生産された現実の物が実在する以上、その製法に係る方法的構成要素を用いて生産物(プロダクト)を特定することはできます。このような「生産物」の発明を方法的構成要素で特定する特許請求の範囲(請求項)の記載方法は、その是非について過去に議論もありましたが、現状では認められており、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム自体は有効です(東京高判平成14年6月11日(平成11(行ケ)437/特許庁審査基準第Ⅰ部第1章2.2.2.4(2))。

Q2.「X製法により得られた生産物Z」という特許発明があるときに、「Y製法により得られた生産物Z」を生産すると、その特許権を侵害することになりますか?