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2016年2月18日木曜日

職務発明制度の改正について

「発明Q&A」
Q:職務発明制度が改正され、法人である会社が職務発明について特許を受ける権利を原始取得できると聞きました。特許を受ける権利の帰属について詳しく教えてください。また、特許法上でも、著作権法上の法人著作と同様に、法人発明が認められるようになったのでしょうか。


A:
1.はじめに
(1)先ず、職務発明とは、その性質上、使用者等(会社)の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行為がその使用者等における従業者等(発明者)の現在又は過去の職務に属するものです(特35条1項)。簡単にいえば、会社勤務の方なら、会社における自分の業務を行う際に完成された発明です。
 職務発明に関する特許法上の規定は第35条のみですが、特許出願される発明の殆どが職務発明である点に鑑みれば、使用者等と従業者等の利益を調整して発明を奨励する職務発明制度は、我が国の産業政策上、非常に重要です。
 職務発明に関する規定は、明治42年の特許法から設けられていましたが、明治42年の特許法では、職務発明に係る特許を受ける権利は、原則として使用者等に原始的に帰属させるという使用者主義が採用されていました。これに対して、職務発明に係る特許を受ける権利を発明者(従業者等)に原始的に帰属させる発明者主義を採用したのは、大正10年の特許法からであり、現行法もその流れを基本的に踏襲しています。
(2)ところが、平成28年4月1日に施行予定の特許法の一部改正(平成27年7月10日公布)により、職務発明に関する取扱いが変更になります。今回の主な変更点は、①職務発明に係る特許を受ける権利の帰属(特35条3項)、②従業者等が受ける相当の利益(特35条4項)、③その相当の利益を決定するための指針(ガイドライン)の提供(特35条6項)です。②と③の詳細は、特許庁のサイトに掲載されております指針案(https://www.jpo.go.jp/seido/shokumu/shokumu_guideline.htm)や各地で開催されている特許庁の説明会に譲り、ここでは①に特化して、特許を受ける権利の帰属について説明させて頂きます。



2.特許を受ける権利の帰属
(1)改正内容
 今回改正(新設)された特許法第35条第3項には、「従業者等がした職務発明については、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から当該使用者等に帰属する。」と規定されています。
 これにより会社側(使用者等)は、労働契約、就業規則等により、職務発明の完成前からあらかじめ従業者等に対して意思表示をしておけば、職務発明に係る特許を受ける権利は、従業者等が職務発明を完成させた瞬間から、従業者等への帰属を何ら経ることなく、最初から使用者等に帰属することになります。これを特許を受ける権利の原始取得といいます。
(2)基本的な考え方
 特許法には、特許を受ける権利に関する規定が多くありますが、職務発明に関する部分以外は、改正されていません。例えば、原則として、特許を受ける権利は、発明の完成と同時に発生し、産業上利用できる発明をした者、つまり発明者に原始的に帰属します(特29条1項柱書)。共同発明のように特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者(発明者)の同意を得なければ、自己の持分を譲渡できません(特33条3項)。また特許を受ける権利の承継は、出願が第三対抗要件であることも変わりません(特34条1項)。
 従いまして、実務上は兎も角、特許法上、特許を受ける権利に関する原則的な考え方は何ら変更されておらず、あくまでも、一定要件を満たす場合における職務発明に係る特許を受ける権利の帰属についてだけ、例外的な取扱いが可能になりました。
(3)法人発明
 今回の法改正では、企業等が職務発明に係る特許を受ける権利を原始取得可能になっただけであり、企業等が発明者となる、いわゆる法人発明が認められた訳ではありません。
 発明は技術的思想の創作(特2条1項)という精神的活動の成果であり自然人のみがなし得るものです。従って、自然人以外の法人や代理人等が発明者となることは、論理的にはあり得ません。また、特許を受ける権利も、発明という創作完成時に同時に発生するため、職務発明であっても、原則通り、自然人である発明者が原始取得すると考える方が論理的であり、自然人である発明者から分離した他者(企業等)が特許を受ける権利を原始取得すると考えは自然ではありません。
 しかし、特許法は産業立法であり、特に職務発明制度は使用者等と従業者等の利益調整により、発明を奨励し、産業の発達を図る制度です。この観点からすると、今回の法改正のように、職務発明に係る特許を受ける権利については、一定要件下で例外的に企業等の原始取得を認める方が、企業等の知財活動を迅速・的確に行う環境が整備され、却って、法目的に沿ったものとなります。また、企業等が原始取得できる特許を受ける権利は、発明者が本来取得する権利のうちで、譲渡対象となる財産権部分に過ぎず、特許証等に氏名が表示される人格権(名誉権)部分は、依然として自然人である発明者に一身専属しています。従って、職務発明に係る特許を受ける権利について、使用者等に原始取得を認めても、使用者等と従業者等の間で利益調整が図られる限り、問題はないといえます。
 ちなみに、著作権法上は、例外的に法人著作が認められています(著15条)。一見しますと、現行著作権法(昭和45年法)は現行特許法(昭和34年法)よりも後に立法されており、その保護対象は思想感情の創作的表現物(著作物)ですので、法人発明以上に、法人著作は認めるべきでないようにも考えられます。しかし、現在の著作権法は、コンピュータプログラム等も保護対象となっており(著10条1項9号)、そのような著作物の流通や利用の促進を図り、企業等が投資回収し易くすることも望まれます。また、特許法の登録主義(特66条1項)とは異なり、著作権法は創作主義(著17条2項)を採用しているため、権利の発生や権利者の探索等も困難という事情もあります。さらに、著作者人格権は強力であり、今回改正された職務発明制度のように、単に財産権である著作権のみを法人帰属させるだけでは、無意味な場合もあり得ます。
 従って、著作権法上は、一定の要件下で、法人(使用者等)であっても、著作権のみならず著作者人格権をも有する著作者となり得ることを認める必要性があり、著作権法では、いわゆる法人著作も認められています。



3.使用者等が特許を受ける権利を原始取得するメリット
 現行法上でも、労働契約、就業規則等の定めにより、職務発明の完成前からあらかじめ、その完成と同時に、その特許を受ける権利を使用者等へ承継させることは可能です(特35条2項反対解釈、大阪地判昭和54年5月18日)。
 しかし、現行法上、使用者等はあくまでも、原始取得者である発明者(従業者等)からの譲渡により、特許を受ける権利を取得することになるため、使用者等が出願を完了するまでの間、特許を受ける権利の帰属が不安定になるという問題が生じます。今回の法改正により、使用者等が特許を受ける権利を原始取得できれば、このような問題の根本的な解決が可能となります。
 具体的に説明しますと、使用者等とライセンス契約等の取引を行う第三者から観れば、その使用者等に確認することにより、職務発明に係る特許を受ける権利の帰属が、従業者等と使用者等のどちらにあるのか明確に認識することが可能となり、取引の安定性が高まります。
 また、使用者等が特許を受ける権利を原始取得できれば、共同開発している相手方企業等に属する従業者等の同意(特33条3 項)を得ることなく、共同発明者たる従業者等の権利の持分が使用者等に帰属することになり、共同発明に係る権利関係の処理を簡素化できます。
 さらに、使用者等が特許を受ける権利を原始取得できれば、発明者である従業者等本人が出願したり、その従業者等から特許を受ける権利を譲り受けた第三者が出願しても、その出願は特許を受ける権利を有していない無権利者による冒認出願であり、第三者対抗要件(特第34 条1 項)を備えることも特許になることもなく(特49 条1 項7 号)、いわゆる二重譲渡問題の発生を防止できます。
 このように、使用者等が職務発明に係る特許を受ける権利を原始取得できるようになった今回の法改正(特35条3項)は、企業等内における知財活動に非常に大きな意義を与えるものといえます。

特許業務法人SANSUI国際事務所 代表弁理士 森岡正往

2015年7月20日月曜日

審査請求料 特許料の軽減申請等

「発明」のQ&A

Q:特許料が1/3になると聞きましたが、詳しく教えてください。


以前より、個人・法人、研究開発型中小企業等を対象にした特許料等の減免制度はありましたが、平成26年4月1日より新たな軽減措置が施行され、当該軽減措置を受けることによって、国内出願を行う場合には「審査請求料」と「特許料」が、国際出願を行う場合には「調査手数料・送付手数料・予備審査手数料」が、それぞれ1/3に軽減されるようになりました。ここでは、国内出願を行う場合における「審査請求料」と「特許料」の軽減措置についてご説明します。

(1)対象者
 以下の要件を満たす出願人が軽減措置を受けることができます。
①小規模の個人事業主(従業員数が20人以下(商業又はサービス業の場合には5人以下)) 
②事業開始後10年未満の個人事業主
③小規模企業(法人)(従業員数が20人以下(商業又はサービス業の場合には5人以下))
④設立後10年未満で資本金3億円以下の法人
 なお、①③における「商業又はサービス業」とは、卸売業、小売業又はサービス業のことをいいます。
 また、③④の場合において、大企業の子会社など、支配法人のいる場合は除かれます。

(2)軽減措置の内容
・審査請求料:1/3に軽減
 平成26年4月~平成30年3月までに審査請求を行うものが対象になります。
・1~10年分の特許料:1/3に軽減
 平成26年4月~平成30年3月までに審査請求が行われた案件が対象になります。

(3)手続き
 原則として、出願審査請求書又は特許料納付書を提出する際に、軽減申請書に必要書類を添付して特許庁に提出します。
 しかしながら、軽減の要件を満たしているのに軽減申請を行わずに審査請求料又は特許料を納付してしまった場合には、納付後1年以内であれば、後からでも軽減申請を行うことにより、既納手数料の返還を受けることができます。ただし、審査請求料の場合には、特許出願が特許庁に継続していることが要件となりますので、既に特許されている場合等においては、1年以内であっても後から軽減措置を受けることはできません。

(4)共同出願の場合
・共同出願人のそれぞれが上記(1)の要件を満たしている場合には、それぞれが軽減申請を行う必要があります。
・共同出願人のうち、一部の出願人のみが上記(1)の要件を満たしている場合には、当該一部の出願人が軽減申請を行うことにより、当該一部の出願人の持分に応じた金額が免除されます。

(5)その他
 審査請求料の軽減措置を受けるには審査請求時に上記(1)の要件を満たす必要があり、特許料の軽減措置を受けるには特許料の納付時に上記(1)の要件を満たす必要があります。よって、例えば、出願時には上記(1)の要件を満たしていなかった者であっても、審査請求時において上記(1)の要件を満たしている場合には、審査請求料の軽減措置を受けることができます。また、審査請求料の軽減措置を受けた者であっても、特許料の納付時において上記(1)の要件を満たしていなければ、特許料の軽減措置を受けることはできません。

 なお、上記の内容はあくまでも国内出願の場合であって、国際出願においては要件が異なります。

2015年7月10日金曜日

先使用権を立証するための公証制度について

「発明」のQ&A

Q.先使用権を立証するための証拠の証拠力を高めるために、公証制度を利用することが有効であると聞きました。公証制度について教えて下さい。

A.
 発明を特許出願しないで、ノウハウとして秘匿した状態で実施する場合、他社が同じ発明について特許を取得したときに備えて、先使用権を立証するための証拠を予め準備をしておくことが望まれます。
 この場合、証拠の証拠力を高めるために、証拠の成立の日や証拠が改ざんされていないことなどを証明する必要があります。このような証明のために、公証制度を利用することが有効です。

(1)公証制度とは

 公証人が、私署証書に確定日付を付与したり、公正証書を作成したりすることで、法律関係や事実の明確化ないし文書の証拠力の確保を図り、私人の生活の安定や紛争の予防を図ろうとするもの。
・公証人:判事、検事、法務事務官などを長年勤めた人から法務大臣が任命する。
・私署証書:署名、署名押印又は記名押印のある私文書。
・公正証書:公証人が、当事者の依頼に応じて、作成する公文書。

(2)公証人が提供する主な法律サービス

①確定日付
 公証役場には「確定日付印」が備え付けられており、私署証書に確定日付を押印してもらうことにより、私署証書がその日付に存在していたことを証明できる。
 書類の作成日が証明されるものではありませんが、確定日付の日に書類が存在していたことが証明できます。
 書類を封筒に入れて公証役場で封印し、確定日付を付与してもらうこともできます。この場合、封筒に封入された書類は確定日付以前に作成され、また確定日付以降に改ざんされていないことが証明されます。
 書類だけでなく、物品の場合は、物品を段ボール箱に入れて公証役場で封印し、確定日付を付与してもらうこともできます。この場合も同様に、確定日付以前に物品が成立していたこと、確定日付以後に改ざんされていないことが証明できます。

②事実実験公正証書
 事実実験公正証書は、公証人が実験、すなわち五感の作用で直接体験した事実に基づいて作成する公正証書。
 例えば、工場内で行う製造方法について将来的に先使用権を証明する必要性がある場合に備えて、公証人を現地工場に招き、使用する材料、機械設備の構造・動作、製造工程等を直接見聞してもらい、そして公証人が認識した結果に基づいて公正証書を作成してもらいます。先使用権を立証する必要が生じたときに、この公正証書を裁判所等に提出して、工場内で実施している発明の内容を証明することができます。

③私署証書の認証
 私署証書につき、その署名・記名押印が作成名義人本人によってされたことを公証人が証明するもの。
 各種書類について、公証人の面前で書類に作成人が署名・記名押印し、公証人の認証をもらうことによって、書類の作成者が証明されます。
 画像データ等を記録したDVDなどのように文書でない物でも、封筒や箱に封入し、作成者の署名・記名押印した説明書について認証を受け、これを封筒や箱に添付することにより、DVDなどの作者を証明することも可能です。

④宣誓認証
 公証人が私署証書に認証を与える場合において、作成者本人が公証人の面前で証書の記載が真実であることを宣誓したうえで、公証人の面前で書類に作成人が署名・記名押印し、公証人が認証を与えるもの。
 宣誓認証は、公証人が「証書の内容が虚偽であることを知りながら宣誓した場合には過料に処せられる」ことを告知した上で付与されるので、証書に記載された内容の真実性が担保されることになります。
 また、同じ内容の証書を2通用意し、1通は公証役場に保存されるので、内容の改ざんがないことを証明することができます。

⑤電子公証制度
 電子文書の形(パソコンに読み込める電子ファイル)になっている私署証書について、次の公証サービスが利用できる。
・私署証書の認証《電磁的記録の認証》
・電子文書に確定日付の付与《日付情報の付与》
・認証又は確定日付の付与を嘱託した電子文書を20年間保管《電磁的記録の保存》
・認証された電子文書又は確定日付が付与された電子文書の謄本の作成《同一の情報の提供》
・認証された電子文書又は確定日付が付与された電子文書が真正であることの証明《情報の同一性に関する証明》

 公証制度の具体的な内容や、公証サービスの利用につきましては、公証役場にご相談ください。

2012年12月26日水曜日

ベトナム特許法


「発明」のQ&A

Q.ベトナムに進出して、現地で商品の生産および販売を行う予定です。そこでベトナムの特許制度について、日本の特許制度と比較しつつ教えてください。

A.

1.ベトナムの概要
(1)ベトナムは、総面積が約33万km2 、総人口が約8800万人、首都はハノイ、公用語はベトナム語です。日本の特許法等に相当する法律として、知的財産法が2006年7月1日から発効されています。
(2)ベトナムが加盟している知財に関連した主な条約として、パリ条約 、WIPO条約、PCT条約、マドリッド協定などがあります。

2.特許出願の手続
(1)出願書類
 特許出願に必要な書類は、明細書、クレーム、必要な図面および要約を公用語であるベトナム語で提出する必要があります。この点は日本と同様です。
(2)その他の書類
 ①委任状は、出願日から3ヶ月以内に提出します。
 ②優先権証明書は、出願日から3月以内に提出します。
   日本では、最先の出願日(優先日)から1年4月以内です。
 ③優先権証明書の翻訳文は、出願日から3月以内に英訳文を提出します。
   日本では、翻訳文の提出が不要です。

3.特許出願の審査
(1)特許要件
 発明が不特許事由に該当せず、新規性、進歩性および産業上の利用性を有することが要件です。全体的に観れば、基本的に日本の特許要件と同様です。
 ①不特許発明:次の発明は特許を受けることができません。
  ・ 科学的な発見や理論、算術的方法、コンピュータプログラム
  ・ 精神的活動を遂行するための主題、計画および方法、遊戯方法
  ・情報の呈示
  ・動植物の品種
  ・人体および動物の病気の予防、診断および治療方法
 ②新規性
  ・公知、公用および刊行物公知により新規性を喪失します。
  ・基準は出願日であり、世界主義です。
  ・新規性喪失の例外規定もあり、公知日から6月以内出願することが条件です。
 ③進歩性
    当業者が公知発明等に基づいて容易に発明できなかったことが要件です。
 ④産業上の利用性
    発明が、同一物の大量生産や反復継続的な結果を達成できれば、この要件を満たします。
(2)審査査手続
 ① 願書・明細書等が提出され、出願費用が支払われることにより、特許出願は方式審査の対象とされます。
 ②特許出願は、出願日(または優先日)から19月後に公開されます。
  日本では、18月後に公開されます。
 ③日本と同様に、出願が公開されると、第三者は情報提供をすることができます。
 ④出願日または優先日から42月以内に、審査請求のない出願は取り下げ擬制されます。日本では、現実の出願日から3年以内に審査請求をしなければなりません。
 ⑤ 特許要件が満たされていないと審査官が判断したとき、応答期限を指定して拒絶理由が通知されます。これに対して出願人は意見書や明細書等の補正書を提出することができます。  一方、審査の結果特許要件を満たしていると判断した場合には、特許を付与すべき旨の決定がされ、必要な料金が納付されると特許が登録原簿に登録されます。その後、特許権者に特許証が発行されます。特許庁の決定に対して不服がある出願人は、その決定の日から3月以内に不服申立することができます。これらの点も、日本と同様です。

4.PCT出願の国内移行手続
 優先日から31月以内に、国内移行の請求書と国際出願の明細書等の翻訳文を提出する必要があります。
 日本では、優先日から30月以内に国内書面を提出すれば、翻訳文の提出には2月の特例期間が付加されます。

5.特許権の存続
 ①存続期間は、出願日(国際出願日を含む)から20年間です。
 ②年金は登録後1年目から納付する必要がありますが、出願中の納付は不要です。
   これらの点も日本と同様です。

6.特許後の手続
 ①無効審判
   第三者は、特許庁に特許の無効を請求することができます。
 ②特許明細書等の訂正
   特許権者は、明細書等の内容の訂正(誤記の訂正、特許請求の範囲の減縮)を特許庁に請求することができます。
  これらの点も、ほぼ日本と同様です。

 外国特許制度の詳細および具体的な事案についての判断は、専門家である弁理士等にご相談されることをお勧めします。

特許業務法人SANSUI国際特許事務所 代表弁理士 森岡 正往

2012年3月1日木曜日

プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(2)


「発明」のQ&A

Q2.「X製法により得られた生産物Z」という特許発明があるときに、「Y製法により得られた生産物Z」を生産すると、その特許権を侵害することになりますか?


A2.
(1)プロダクト・バイ・プロセス・クレームは、「異なる製法により得られた生産物がそのクレームで特定された発明に含まれるのか」という根本的な問題をはらんでいます。

(2)先ず、現状の特許庁における審査に関していえば、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは「最終的に得られた生産物自体を意味しているものと解する。したがって、請求項に記載された製造方法とは異なる方法によっても同一の生産物が製造でき、その生産物が公知である場合は、当該請求項に係る発明は新規性が否定される。」とされています(特許庁審査基準第Ⅱ部第2章1.5.2(3))。このようにプロダクト・バイ・プロセス・クレームは、あくまでも「物」の発明であり、最終的な結果物に拘るというのが、少なくとも現時点における特許庁の審査における考え方です(結果物特定説、物同一説)。

(3)次に、特許権侵害訴訟段階に関していえば、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに係る「発明の技術的範囲は、当該製造方法により製造された物に限定されるものとして解釈・確定されるべきであって、特許請求の範囲に記載された当該製造方法を超えて、他の製造方法を含むものとして解釈・確定されることは許されないのが原則である。…(中略)…(物の発明は)物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときには、…(中略)…その技術的範囲は、特許請求の範囲に特定の製造方法が記載されていたとしても、製造方法は物を特定する目的で記載されたものとして、特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく、「物」一般に及ぶと解釈され、確定されることとなる。」とされています(知財高裁平24.01.27(平成22(ネ)10043))。上記のような事情が存在する場合のプロダクト・バイ・プロセス・クレームは「真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」、そのような事情が存在しない場合のプロダクト・バイ・プロセス・クレームは「不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」と呼ばれています。真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合、特許発明の技術的範囲(ほぼ権利範囲)は、特許請求の範囲に記載された製法に限定されることなく同方法により製造される物と同一の物として解釈されますが(結果物特定説、物同一説)、不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合は、特許請求の範囲に記載された製法により製造される物に限定されて解釈されます(過程限定説、製法限定説)。ちなみに、プロダクト・バイ・プロセス・クレームが真正か不真正かの立証責任は特許権者側にあります。その立証が不十分な場合は不真正であるとして扱われ、特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲に記載された文言通り、製法に限定して解釈、確定されます。

(4)この最近の知財高裁の裁判例に基づけば、Q2の場合、原則として特許権侵害にはなりません。但し、特許請求の範囲の記載が真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームと解釈される場合には特許権侵害となる危険も皆無ではありません。具体的な事案についての判断は、専門家である弁理士等にご相談されることをお勧めします。



特許業務法人SANSUI国際特許事務所 代表弁理士 森岡 正往


プロダクト・バイ・プロセス・クレーム


「発明」のQ&A

Q1.「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」とは何でしょうか?

A1.
(1)プロダクト・バイ・プロセス・クレームとは、生産物(プロダクト)の発明を、製法(プロセス)の表現を用いて特定した請求項をいいます。先ず、この概要について説明します。

(2)「発明」は自然法則を利用した技術的思想の創作であり(特許法2条1項)、発明には「物の発明」と「方法の発明」(同2条3項)があります。特許を取得しようとする場合、先ず、その分類(カテゴリ)に沿って、その対象が「物の発明」であるか「方法の発明」であるかを明らかにする必要があります。次に、特許を取得しようとしている発明が第三者にもわかるように、権利範囲を定める基準となる書面(特許請求の範囲)に、請求項という単位毎に、その発明を言葉で記載して特定する必要があります。
この際、「物の発明」なら、基本的に「物」に係る構成要素(これを物的構成要素という。)のみを用いて表現できるはずです。また、「方法の発明」なら、基本的に工程(ステップ)等の「方法」に係る構成要素(これを方法的構成要素という。)のみを用いて表現できるはずです。従って、生産物(プロダクト)の発明は「物の発明」ですので、本来、その特定表現は具体的な物的構成要素のみで特定できるはずです。このように生産物の発明が具体的な物的構成要素によって特定されることにより、審査対象となる発明が明確になるのみならず(同36条6項2号)、他人の特許権により大きな影響を受ける第三者にとっても、特許権の権利範囲が明確となり好ましいといえます。

(3)ただ、そもそも発明は技術的思想という抽象的な概念であり、言葉による特定自体が容易ではありません。また、新規で有効な生産物が製造されることは明らかでも、その生産物に係る発明の特徴を物的構成要素で的確に特定すること自体が困難、さらには不可能に近い場合も多々あります。このような傾向は、目視できないミクロな物的変化に基づいて優れた効果を発現する材料分野の生産物に係る発明に多く観られます。もっとも、このように物的構成要素による生産物の特定が困難な場合でも、特定の製法により生産された現実の物が実在する以上、その製法に係る方法的構成要素を用いて生産物(プロダクト)を特定することはできます。このような「生産物」の発明を方法的構成要素で特定する特許請求の範囲(請求項)の記載方法は、その是非について過去に議論もありましたが、現状では認められており、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム自体は有効です(東京高判平成14年6月11日(平成11(行ケ)437/特許庁審査基準第Ⅰ部第1章2.2.2.4(2))。

Q2.「X製法により得られた生産物Z」という特許発明があるときに、「Y製法により得られた生産物Z」を生産すると、その特許権を侵害することになりますか?